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万引き家族|偽家族で手に入れたのは、家族の役割。

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万引き家族|偽家族で手に入れたのは、家族の役割。

 

久しぶりに映画館へ行ってきた、ヤマノカホ(@kaho_yamano)です。

映画「万引き家族」、なにかと話題ですよね。カンヌ映画祭では最高賞を受賞し、一般上映後は2週連続1位を獲得するなど評価も上々です。

実際に、魅力がたっぷりと詰まった映画でした。樹木希林、安藤サクラ、松岡茉優のすばらしい演技や家族のカタチの問い方など、あげればキリがありません。

ただ、一番気になったのは、それぞれの過去とのつながり。この映画は、満たされなかった本当の家族への思いが、だんだんと救われていく物語でもありました。

※以下、ネタバレを含みます。

 

 

あらすじ

 

先にあらすじを書くと、このような内容です。

 

東京にあるボロボロの平屋に住む、5人の家族の柴田家。祖母の初枝(樹木希林)、父の治(リリー・フランキー)、母の信代(安藤サクラ)、息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)の4人は、祖母の年金、母のクリーニング工場での稼ぎ、父の日雇いでの稼ぎ、そして万引きで生計を立てている。

そして、雪の降りそうな寒い夜。治と祥太は万引きの帰り道で、団地の玄関先にしゃがみ込む少女(ゆり)の存在に気が付く。治と祥太は、これまでもたびたび彼女を見かけていた。そして、さすがに寒い夜では死んでしまうと考え、家に連れ帰ることに。

ゆりを返そうと、治と信代が団地の前まで行くけれど、聞こえてきたのは両親の怒鳴り声と「痛い!」と叫ぶゆりの母の声。暴力を振るうゆりの父に母が「産みたくって産んだわけじゃない!」というのを聞き、信代はゆりを返さないことを決める。

ゆりを新しい家族に迎えることでそれぞれの心に変化が生まれ、家族としての絆が一層深まったところで、ある事件が。

家族がバラバラになるなかで、それぞれの秘密が解き明かされていく…。

 

 

ゆりが生み出した、“家族”への思いを救う時間

 

ゆりは虐待をされている5歳の少女。虐待は酷いもので、腕にはアイロンを押し当てられた跡もあります。そんな彼女の存在が、柴田家の人々の過去を救っていきます。

 

信代の場合

 

「産みたくなかった」という言葉を聞いて、ゆりを連れ帰った信代。祥太を気づかうゆりを見て、信代は「『産みたくなかった』なんて言われたら、あんな風(優しく)には育たないよ」と言います。また、腕にはゆりと同じようにアイロンを押し当てられた影どの跡が。

信代自身も、母親に虐待され存在を否定されてきた過去があるのです。そして、自分の中に優しさを見つけられないままでいる。

そんな信代は、ゆりに母親として接して愛情をかけることで、“母の愛”を求めていた子どもの頃の自分も癒していきます。ゆりに“愛”について教える場面は、素敵なシーンのひとつです。

 

亜紀の場合

 

信代の妹である亜紀の正体は、初枝から夫を奪った女性の孫。亜紀が育った家庭は、両親と妹の4人家族です。東京に二階建ての一軒家を建てて暮らしていることから、少しゆとりのある生活をしているようです。

亜紀は、表向きにはオーストラリアに留学していることになっています。しかし、実際は初枝の家に住み、JK見学店という風俗店でお金を稼いでいます。その風俗店での源氏名は「さやか」。高校2年生になる亜紀の妹の名前です。

亜紀は“妹を可愛がる両親”と“可愛がられ慣れている妹”にわだかまりを感じていました。愛情は比較できないものだけど、やはり差を感じてしまうと満たされない渇きを感じてしまうもの。

ゆりが来る前は、亜紀は初枝のやさしさと風俗の指名で満たされない気持ちを癒していました。しかし、ゆりが来て新しい妹ができます。

最初は「犯罪だよ。返してきなよ」とムスッとした顔をしていた亜紀ですが、だんだんとゆりを可愛がるようになります。髪をとかしてあげたり、風俗店の常連“4番さん”にゆりのことを楽しそうに話したり。本当の妹とは築けなかった関係を、ゆりとの間に築いていきます。

この変化があったから、亜紀と4番さんの関係も変化したのでしょう。亜紀はゆりという妹ができて愛情をかけることを知ったから、愛されることも知ることができました。

 

祥太の場合

 

祥太は本当の家族を知りません。物心がつく前に、信代と治に拾われたのです。場所はパチンコ店の駐車場。治が車上荒らしをしていている最中でした。おそらく、車内に取り残され「このままでは熱中症で死んでしまう」というところを救われたのでしょう。

祥太の年齢は11歳前後ですから、治たちとは10年ほど一緒にいることになります。しかし、祥太は治と信代を「お父さん」「お母さん」とは呼んでいませんでした。

それが、ゆりが来てから治を「とうちゃん」と呼ぶようになります。

祥太はゆりが来て、兄になりました。「ゆりはお前の妹だよな」と、治に言われたことがキッカケです。

でも、それ以上に大きいのは祥太がゆりを“守る相手”と認識したことです。治の言葉以上に、駄菓子屋のおじいさんに言われた「妹には(万引き)させるなよ」という言葉が大きかったのでしょう。

こうして祥太は“妹を守る”こと知りました。その中で、今まで知らなかった家族を知っていきます。

 

 

バラバラになった先にあったもの

 

初枝が亡くなった後も、死体を埋めて年金を不正受給していた家族。彼らは、ゆりを守るために祥太がわざと万引きで捕まったことで終わりを迎えます。

祥太は児童養護施設へ、ゆりは家族のもとへ行くことになります。信代は死体遺棄で5年間の懲役。治は南千住で一人暮らしをはじめます。亜紀は…わかりません。ただ、バラバラになった後でただ一人初枝の家を訪れました。

本物の家族よりも濃い時間を過ごした5人。全員が前向き歩み始めたわけではなさそうですが、初枝の家で過ごした時間は心の支えになるはずです。

少なくとも、ゆりは信代に愛されたことが心の支えになる。

「愛してたらね、殴ったりしないの。こうするの」と、信代に抱きしめられて愛を教わったことは、ゆりがまっすぐに育つ支えになるはずです。

 

「万引き家族」はゆりが柴田家の人々の過去を救い、柴田家がゆりの未来を救う物語でした。